ここは、田舎から出てきたどこーにでもいそうな学生≪ちくわ≫が、日常に流れているあれやこれやを拾い集めて、ある日はすりつぶし、ある日はこねまわし、ひそやかに物語に練りなおしてゆく――そんな場所なのです。

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「わからないから心配なんだろう」なんて素直な台詞が、僕にも吐けたらいいのに

高校の同級生が劇団員になったこともあって、まぁそれはきっかけにすぎないのですが、ふと思い立って劇団綺畸の夏公演『燃えない家族と燃えるごみ』を観に駒場まで行きました。

劇団の名前はよく耳にしていたので期待しすぎていたのかもしれませんが、案外ぱっとしない感じだな、というのが正直な印象でした。

春に京都で多少ぶっとんだのを観て来たせいな気もします。

まぁ、良くも悪くも、特別突き抜けたところのない作品だったように思います。

とはいえ、楽しかった……ってのは変かな。なんていうんだろう。こういうとき英語のhave a good time って的確な表現だなーと思います。……さておき。

作中の彼らは普通の言葉を使い、日常の会話を会話を交わし、ベタな恋愛をして、特に思いもよらぬ行動に出たりすることもなく、生活にアクセントをつけるような奇妙な偶然は起きるものの、概ね常識の範囲内で行動していました。

でも、その何もかもがぼくには、わかりませんでした

誤解のないように書いておくと、それは別に役者の伝え方が悪かったという意味でも、演出が不適切だったという意味でもありません。

むしろ、この作品の主題のひとつが「家族」なのだとすれば(まぁタイトルに入れるくらいだから多分そうなのでしょう)、これは自然なことのように思えます。

僕たちが、というより僕がということになるのかもしれませんが、他人と話すときにもっとも理解しあえない部分、それがお互いの家族の話、家庭の話です。

抽象的にしか書きませんが、まぁ多分いろいろ思い当たる人は多いんじゃないかと思います。

「それを言っちゃあおしまい」なんだけれど、「それなしでは何も説明できない」という、自分が生きてきたバックグラウンド。

僕たちは、本当に、お互いのことを簡単には理解できません。

相手がいままでどうやって生きて来たかには、悔しいぐらい、どうやったって触れられないものです。

一緒に美術館に行こうと、ひとつ屋根の下で生活しようと、いまこの瞬間同じ時間に同じ場所で同じものを見ていようと、そうそう簡単には触れられないものです。

人によっちゃあ、触れようとされただけで距離をおかれたりもします。

余計に心を閉ざされたりもします。

けれど、触れたい側だって、それに触れなきゃあ何も言えない(ような気がする)ために悶えるのです。

彼らも、その「わからなさ」「通じなさ」にぶちあたっているように思えました。

観客として見ている僕も、だから同様に彼らのことを理解できませんでした。

とはいえ、この作品の登場人物たちは誰もかれもとても優しいのか、それによって必要以上に他人を遠ざけることはありませんでした。

ただ「理解しあえない」というだけ。

無意識的にしろ意識的にしろ、このことを最初から弁えているようでした。

その点がもしかしたら、この作品がどこか現実離れしているように見えた部分だったのかもしれません。

現実に生きてる人はみんな、もっと「理解できない」ということを理解できていない。

ダレモワカッテクレナイなんて嘯きながら、すぐに理解してもらえる人がいると思いこんで突然ありえないぐらいに近づいて、その距離にいてもすれ違うことがわかると、この人は何にもわかってくれなかったと勝手に失望して離れていく。

そういえば、この距離感をうまく掴めているなと僕が一番感じたのは、予備校に通っていた時の友人たちでした。

僕たちはあの時、まったく違う土地にある、まったく違う高校からやってきて、各々まったく違う理由で浪人し、それぞれまったく違う大学を、まったく違う理由で志望して、どうしうわけか同じまちで受験勉強していました。

そこまでわかっていたので、僕たちは同じ大学の新入生のように妙に馴れ馴れしくなるでもなく、逆に不自然にネガティブな感情をもって離れるでもなく、「踏み込んでいいライン」がどこなのかを……もしくは少なくとも「踏み込んでいいライン」という境界線が存在するということを、わかった上でコミュニケーションをとっていました。

だからこそ、あれほどバラバラな状況でありながら、僕たちは不思議なくらい自然で(自分で決めた「出せる部分」までは)素を出した会話ができたのだと思います。

ま、なんでこんなこと書くかって、大学入ってからあまりに「他人との距離感のとりかた」がわからず随分と焦ったからなんですけどね。自分の責任なんですけど。

話を少し戻してさらにちょっとだけつっこんだことを書くと、「理解しあえない」ということをわかった上でそれでも踏み込もうとするその無遠慮さが多分本当の優しさであり、相手を想うということなのだと思います。

(高校生ぐらいの時に僕が出演させて頂いた、とある作品の中で小さく描かれていたのがそれでした。もっとも当時の僕は全くそれに気づくことができなかったのですが。)

例えばユウスケが友人に言った「お前、良い奴だな」という言葉は、その優しい無遠慮さに対してのものだったのでしょう。

さて、僕たちが他人を理解できないとして――少なくとも「簡単には」理解できないとして――僕たちに可能な最も現実的なコミュニケーションは、相手と時間と空間を共有することだと思います。
ただ共有していることと通じ合っていることを混同している間は蜜月の時ではありますが、それがいつまでも続くわけではありません。

それは適当に自分をだましているだけです。

同じ学校に通っていても、同じヒットソングを好きでも、同じ年に受験勉強をしていても、僕たちは決して同じ経験なんかできないものです。

だから……理解はしあってないけど共有している、という状態を否定的にとらえないようにすればいいんじゃないかと思います。


話が一瞬逸れますが、演劇というのはこれができるから僕は好きです。

「あーあれ(君ト僕ハ同ジヨウニ)感動したね!」なんて野暮なことを言わなくても、(舞台にいる役者あるいは見知らぬ観客と)「同じ時間にそこにいたんだ」というそれだけで、体験したことの過不足ない説明になるからです。

それだけであのドキドキする感覚まで説明できるからです。

まぁこれはいつか書くかもです。

僕自身はまだ、何かを共有することと内面を理解しあうことの二つをきれいに分けられるほど、強くはなれていません。

すぐに理解してもらえる誰かを探して不毛なことを繰り返してます。

見つかるわけがないので、淋しさのせいでさらなる淋しさを呼ぶことになります。

そのまま、僕らあのときそこにいたんだよね、で話を止めればいいんです。

「僕らあのときそこにいた」という共有だけでも十分すぎるほど素晴らしいことだし、それだけを認め合えるっていうことが十分素敵なコミュニケーションだと思います。

とにもかくにも、その「刺さらなさ」こそがこの作品の味だったのかもしれません。

ぐさぐさ刺さるやつも見たいんですけどね。

そういうわけで、終わります。


----あとはまぁ思ったことを箇条書きで。----


・駒場小空間、入ったのは初めてだったのですが、あれはどこまでがデフォルトのつくりなんでしょう?同じ場所を使っていても、劇団によってと言うか劇によって(客席含め)骨組から作り直すっていうのは珍しいことではないので、これはどうなのか少し気になりました。あの形……階段の位置とか、面白いですね。


・三方や四方から見られるという芝居は、僕も演じる側で体験したことがありますが、観る側になってみるととても面白いですね。どこから見るかが大きく体験に関わるって言うの、なんだか不思議。今度機会があれば、そういう芝居を二回別の場所から見てみるとかやってみたいです。


・女性の観客が多いな、という印象を受けました。半分ちょいが女性だったんじゃないでしょうか、東大の男女比から考えるとなかなかの割合。なぜだったんでしょう。


・セリフ回しはわりと好きでした。細部にちょこちょこリアルなやりとりがあって、脚本書いた人はきっと普段からアンテナ張ってるんだろうなーと思いました。


・テレビのニュースがなかなかいい味出してました。あと喫茶店の音楽が演出で途中消えていたり、音響がなかなか良かったです。


・あの女子高の子が最後に私服ではなく制服で歩いてるって言うのはベタとも言えますが、何だかほんわかしました。現実はあんなに甘くないんでしょうけど。


・物語ってやつはたいていそうなのもかもれませんが、気づくとぼやーっと人間関係がごちゃごちゃつながってるの、いいですね。


・終わった後、後ろに居た二人組が「みんなが笑ってるとこ、そんなに面白いと思わなかった」と言っていて、まぁその感想はいいんですが、個人的にはこの話はわりと素直に、面白いシーンで笑いがこぼれる感じでしたね。もっと「笑いどころに困る劇」ってあるなーので(笑いがあればいいってもんじゃないってのはもちろんですけど)。あぁここまで書いて気付きました、この話、見てて気持ちよかった。それがいいことなのか悪いことなのかは保留。


・一番いいなって思った台詞は(細かい部分うろ覚えですが)「名前もわからない人のために弁当を温めるようなのが、結構好きで」

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