ここは、田舎から出てきたどこーにでもいそうな学生≪ちくわ≫が、日常に流れているあれやこれやを拾い集めて、ある日はすりつぶし、ある日はこねまわし、ひそやかに物語に練りなおしてゆく――そんな場所なのです。

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「懐かしいね」の切なさを踏み越えて

共感だとか感情の共有だとかについてはよく思考の俎上にのぼる。

ぼくたちはどれほど同じ経験をしたところで、寸分たがわず同じ感情なんてものを持つことはない。それはもちろん、ぼくたち一人一人の性格の違い、立場の違い、経験の違い、そのときの気分の違いによるもの。しかし、ときどきぼくたちは「私のあのときの気持ちと、君のあのときの気持ち」を同一視することで何かの安心感を得ようとすることがある。これはあまりにも無自覚だと暴力的になってしまうけれど、適度な範囲であれば悪くないやりかただと思う。というかこれを禁ずると、離散位相よろしくあらゆる感情がどれひとつとしてお互いに近づくことのないものとなってしまうだろう。そんな世界では感情に感情という名前をつけることすらナンセンスだろう。だからこそぼくたちには、何かを捨象することによる同一視というものが必要になる。

これはもちろん何にでもあてはまることなのだけれど、初めの文脈に即して例を出すならば、「懐かしいね」という言葉がまさにそうだろう。昔の話をして、昔の曲を聴いて、昔の写真を見て、「懐かしいね」と言うときに、間違いなく私とあなたは別の風景、別の匂い、別の感覚を思い出している。けれど、そんなことを言い出すとキリがないし、そんなことは心の奥ではわかっている。だけど、それでも、(私もあなたも)懐かしいね、なのである。

懐かしいね、と言われたとき、ぼくはとても切なくなる。ぼくの思い出しているこの肌感覚や、頭の中のざわざわした感じを、目の前の旧友にそのまま渡せたらどんなに素敵だろうかと考える。あるいは、相手も全く同じそれを感じているのならどんなに救われるだろう、と切に思う。けれど、そんなことはありえない。だからぼくも笑って、懐かしいね、と返す。心がめちゃめちゃ痛むけれど、でも、そんなことが言い合えることだって、とても奇跡的なことで、だから同時にとても幸福感も感じる。

同じものを懐かしいねと言える、そんなものをシェアしていた、それって素晴らしいじゃないか……なんて思えるくらいの強さ、あるいは鈍感さはさすがに身についてきたように思う。「人は他人と分かり合えない?それはたぶん、君が分かり合うという言葉の意味を間違えてるんだ」なんて、自分に言い聞かせている。

記号的な「思い出づくり」は、画一的な意味付けをすることで同一の記憶を持ちやすくしようという意図ゆえに、現実には決してそうできないことの淋しさを際立たせるのかもしれない。これを、全国のお茶の間に流されるアニメやドラマに例えるならば、対称的なのは演劇かなって思う。これはどこかに書いた気もするけれど。演劇は完成された作品を展示したり上映したりするのではなく、そこで今まさに起こることを観客も一緒に体験する。だから、ぼくの体験と、ぼくの隣にいた人の体験は「ちがう」ということが、理解しやすい。理解しやすいから、「ちがう」をきちんと踏み台にした上での、「一緒に同じ空間でこれを体験した」という、共通体験の部分へのポジティブな気持ちが持てる、気がする。これが映画だと、同じ(何らかの見せ方を意図して作られた)完成品を見ているという意識が先行するせいで、鑑賞後の意見の食い違いによってカップルはすぐ喧嘩する(という都市伝説がある、本当に映画の内容で喧嘩しているカップルは見たことない)。

現実の「誰かと体験を共有する」ということも、一回きりであると理解しやすい体験から始めて慣れていくのがよいのかもしれないなぁと少し思った。ちがうということを認められないと、ちがうことがつらい。十分にわかってても、ときどきつらくなるくらいだから。だれもぼくのことわかってくれないんじゃないかと。いや、わかってくれないんだけどね。わかってくれないのはひどく哀しいことなんだと勘違いしそうになるときがある。そのくらいつらいから、最初に認めておこう。踏み台に使うのだ。君とぼくの見てる世界は別物で、別物だからこそ、何かが同じかもしれないとみなせたときに、喜べる。

昔のことを誰かと話すときの気持ちのすれ違いに、昔はもっと苛立ちややるせなさを感じていた。それがだんだん薄れてきているのに気づいて、何でかなって思って、これまで考えてきたことも含めて書いてみた。(もちろん、中高の地元にいるから、こんなことを考えた)
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