ここは、田舎から出てきたどこーにでもいそうな学生≪ちくわ≫が、日常に流れているあれやこれやを拾い集めて、ある日はすりつぶし、ある日はこねまわし、ひそやかに物語に練りなおしてゆく――そんな場所なのです。

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願いの人形(三題噺)

「ぼく、これ鳴らすの子どものとき好きだったなあ」

「あ、わかる。あたしも」

俺の前を通りすぎていったふたり組が、大げさな手つきでがらがらと鈴を鳴らす。つづけて、おのおの肩にかけた鞄から小さな人形を取り出す。俺の目からでも、人形に光沢があること、材質が木でないことがわかる。最近はどいつもこいつも、自然の素材を使ってこない。まったく嘆かわしい話だ。

ふたりはしばらくお互いの人形を眺めていたが、そのまま賽銭箱の中に落とした。女は財布から小銭を投げ入れ、男はポケットをまさぐって小銭を取り出し、同じように投げ入れる。

ぺこり、ぺこり、ぱん、ぱん。不揃いに礼と拍手をして、両手を合わせたまま目を閉じる。人間というのは、左手と右手で微妙に大きさや形がちがうらしいが、もちろんそれを厳かに確認している仕草ではない。

「なにお祈りした?」

「早いよ、まだ終わってないのに」

「あれ、ごめん」

「まあいいよ、だいたい終わったし」

「で、なにお祈りしたの?」

「教えませーん」

ふたりは楽しげに笑いながら、もと来た道をも引き返す。俺には目もくれずに通りすぎ、鳥居のほうへ。そうして、石段を降りていくところで、俺の視界からは消えた。今日はこのくらいで終わりだろうか。まったく、今日も今日とて退屈である。

「いやはやぁ」

と、本殿のほうから少女が飛び出してくる。

「まったく、近頃は身勝手な神頼みが多すぎるよねぇ」

少女の口ぶりは自己完結的で、特に同意を求めているというわけでもなさそうだったが、一応はこちらに顔を向けているので、俺はリアクションをとることにした。

「どんな頼みでも聞いてくれるから神様なんだ、ごちゃごちゃ言うな」

「別にアンタにいったわけじゃないよぅ」

やっぱりちがったらしい。

「そうはいっても、なんでも聞いてくれるから神様なんだってのはそれはそれで面白い話だよね。こうやって変なことを頼む先がいるからこそ、私はこうしてここにいるわけだしねぇ」

彼女はそういいながら、賽銭箱を開け、参拝者が入れていったふたつの人形を手にとる。目に近づけたり、太陽に透かしたりしていたが、やがて飽きたように元に戻した。

「どうだ、今日のは」

「どうもこうも、最近はずっとこんな感じだよぅ」

少女は片足で飛び跳ねながら、鳥居のほうへ進んで行く。シャツにジーンズにスニーカと、神社にそぐわない「現代的」な格好だから、こうして跳ねているところを誰かが見れば、近所の子どもが遊んでいると思うかもしれない。容姿だけでいうなら、歳のころ十四、五、といったところだろうか。もっとも、彼女の見てくれに関して歳の話をしても仕方ない。

「ふぅん、もう帰っちゃったかなぁ、ここからじゃ見えないねぇ」

どうやら石段の下を覗いていたらしい。

「わざわざ〈目で確かめる〉ような真似をしなくたって、お前ならどこでも、それこそ遠い世界の果てにいる奴の姿だって見ることができるだろうが」

「ふっふぅ、それを〈見る〉というのならだけれどねぇ」

少女はけたけたと笑い、右足を軸にくるりと1.5回転してから、こちらへ歩いてきた。

「アンタたち狛犬くんだって、別に生き物としての犬の目玉がついてるからこの世界が見えるというわけじゃないでしょぅ。語るためには視点が必要なんだよぅ」

相変わらずわけのわからないことをいう。

「何度も言わせるな、俺は獅子だ。あんな犬っころといっしょにするな」

「狛犬だよぅ。あっちとこっちで区別するなんて、めんどくさいもん」

どうせアンタのほうしか喋れないんだしねぇ、と少女はまた笑う。俺はため息をついた。こいつがこの姿で現れるようになってから、もうずいぶんと経つが、俺はいっこうにこいつの調子に馴染むことができずにいる。

「頼むから、たまにはまたジジイのカッコで出てきてくれよ」

「それはもう、人間たちに頼むしかないよぅ。狛犬くんも知っての通り、私がこの姿なのは、彼らのおかげなんだからぁ」

そんなことは百も承知である。こいつは、民衆の抱く印象によって姿形が変わる。昔々、まだこの少女が来ているこんな衣服がこの島国になかったころ、こいつはもっと威厳ある存在だった。いや、おそらく数十年前だってそうだったろう。それがどうしたことだ。

「私はこれ、気に入ってるんだけどねぇ。萌えっていうの? 最近はそういう神社もときどきあるらしいからねぇ。参拝客も増えて、いいことづくめだよぅ」

「おかげで、変な願いをしてくるやつも増えてるんじゃないのか」

そうなんだよねぇ、と彼女は先ほど放置した人形をもう一度、両手でころころと転がした。ちょうど、人間が竹とんぼで遊ぶような仕草である。

「もう、どっちがどっちかわからなくなっちゃったよぅ、こんなに似てるんだもん」

「また〈すりーでぃーなんとか〉ってやつか」

「3Dプリンタ、だよぅ。便利な世の中になったもんだよねぇ」

この神社には、昔から捧げものとして人形を置いてゆくという風習が残っている。それがどんな理屈に由来するものなのか、一狛犬にすぎない俺には知る由もないが、ともかく昔から人形が置いていかれるのである。

ところが、近年になって、人形がある理想形に近ければ近いほど、願いが叶いやすいという噂が流れ始めた−−らしい。俺も、参拝客の話をきいただけだけれど。それでも当時は、まだみんな手作りの人形を持っていたから、形も大きさもまちまちだった。理想形があっても、それを作ることなんてできなかったのだ。

「参ったなぁ。これじゃあどっちの願いも平等に叶えないといけないよぅ」

困ったようなセリフを、特に困ってもいない口調で口にする少女。同じ設計図をもとに3Dプリンタとやらで出力されたのであろう、二体のつやつやの人形は、俺の目からも瓜ふたつとしかいいようがなかった。

「ふん。人間の願いなんて、適当に叶えときゃいいのさ」

俺はこれまでにも何度もそう助言してきた。今となっては、ほとんど惰性である。

「そうもいかないよぅ。最近は、みんないろいろ考えるからねぇ。なんであの子はうまくいって、自分はうまくいかないの、とかねぇ」

「そんなもん、そいつの努力不足か、さもなきゃ運が悪かったのさ」

「その運を左右してるのが、私って思われてるんだけどねぇ」

「誰もが三者三様の人形をこしらえてたころなら、人形の出来不出来のせいにできたんだがな」

それだって、ずいぶん乱暴な話である。人間というのは、勝手なのだ。

「本当にそうだよぅ。こんなに似てるんじゃあ、片方の願いだけが叶ったときに、誰のせいにするのぅ」

少女は朗らかに続けるが、人形を手放さないところを見るとほんとうに困っているらしい。

「個体値、ってのがあることにすればいいんじゃないか?」

「こたいち?」

「前に、携帯ゲーム機っていうのか、あれで遊んでるガキがそんな話をしてたんだよ。同じ魔物でもそれぞれの個体で個体値がちがって、それはそういうもんなんだ」

「神聖なる神社でゲームなんてだめだよぅ」

「同じように見える人形にも、ちがう個体値がある。その個体値を割り振る存在がお前なんだ」

少女は理解したのかしていないのか、空を見上げている。いや、こいつが理解しないことなどこの世にあるわけがない。考え中といったところか。人間がそんなことで納得するだろうか。俺はすると思う。あいつらは、自分を特別な存在だと思うことにかけては他の生物を圧倒するのだから。

少女はしばらくそうしていたが、

「それで、いっかぁ」

ぽつりと呟いて、ポケットからマジックを取り出し、人形に数字を書き始めたのだった。



#創作三題噺深夜の60本一本勝負_20161214
21:45-22:45
妖怪三題噺( @3dai_yokai )から以下のお題をお借りしました。 
「個体値」「神社」「プラスチック」
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