ここは、田舎から出てきたどこーにでもいそうな学生≪ちくわ≫が、日常に流れているあれやこれやを拾い集めて、ある日はすりつぶし、ある日はこねまわし、ひそやかに物語に練りなおしてゆく――そんな場所なのです。

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蛍光信仰(三題噺)

「君はなんのためにきてるの」


そのお姉さんは飾りつけの手を止めずに、そんなことをいった。


「なんのために、ですか」


一瞬、「なんのために生きてるの」と聞かれた気がしてしまったのもあって、答えるタイミングを失ってしまって、とりあえず復唱する。


「私たちは一体、なんのお祝いをしているんだろうね」


「なんの……。誕生日じゃあないんですか」


ぼくはお姉さんがなんの話をしているのかわからなかった。とりあえず、木々の間に、変な飾りのついた導線を通していく。途中、葉っぱが頭にひっかかりそうになって、慌てて身を屈めた。


「そう、誕生日というのはなんなのだろう」


お姉さんはまだそんなことをいっていたけれど、ぼくは次の導線をつなぐ木を確かめなければいけなかったので、それに応える余裕はなかった。お姉さんは、ぼんやりした口調のわりに、驚くほどのスピードで作業を続けている。ぼくもサボってはいられない。


……誕生日。


ぼくたちが定期的にお祝いごとをすることが定められた日のこと。前ということばが前ということばでしか説明できないのと同じように、君ということばが君ということばでしか説明できないのと同じように、誕生日は誕生日で、そこへ向かうことばを紡ぐことがぼくにはできなかった。


とにかく、飾りつけを終わらせなければいけない。また、あの光がやってくる。お姉さんはまだぶつぶつ言っていた。


「私たちが毎日見ているあの光。確かなのは、あの光があるおかげで、私たちが生きているということ。お祝いするのは当然、でも、ほんとうにそうなのかな」


あの光というのは、ぼくたちを照らしているあの神の光のことで、ぼくたちはそのために準備を進めているわけだ。今日は、光の終わりの日であり、光の始まりの日だから。あの光は、たくさん光る日もあれば、ちょっとしか光らない日もある。今日が、ひとつの区切り、誕生日なのである。


「この世界にしか生きていないんだから、この世界の摂理のなかで生きるしかないんだよね……


お姉さんのひとりごとを聴きながら、しばらくぼくは淡々と導線を木に結びつけていたが、ふと、違和感をおぼえて、目の前に残った木、木、木と、手許の紐を確かめる。どう考えても長さが合わない、余るならまだいいけれどこれは絶対に足りない……


後ろを振り返り、頭の中にぼんやりあった平面図と照合する。始まる前にお姉さんと確認した図。


「あっ」


原因がわかる。通らなくていい木を通ってしまった。お姉さんはぼくの声に一瞬こちらを見て、またすぐ自分の作業に戻った。どうする。今ならほどいてやりなおす時間はぎりぎりある……ほんとうにぎりぎりという感じだが……。周りをきょろきょろしても、誰しも自分のやるべきことに追われていて、ぼくが困り果てているのには気づく気配がない。時間だけがすぎる。


今からほどきにいくと相当面倒だ。たぶんどこを間違えたのかはぼくしかわからない。このままいこう。ぼくはそう言い聞かせ、どうやって誤魔化せば導線が足りているように見えるかを考えていた。


「少年少年、あの鏡の位置、あれでいいかな」


ふとお姉さんから声がかかり、ぼくは震え上がる。


「え、え、ああ、いいんじゃないですか」


「ちゃんと見てないでいってるでしょ。けっこう角度調節が繊細だからさあ、いっしょに確認してよ」


お姉さんは上着のポケットから図面をとりだしながら、ぼくのほうに歩いてくる。


「うーん、えっと、これがここでしょ。この位置からあれが見えてるってことは、これでちょうどいいのかな」


鏡を覗き込んでは図面を確認して、難しい顔をするお姉さん。ぼくはただただ、導線の張り方を間違えていることがバレないか、気が気ではなかった。


「こんな複雑な配線、昔の人はどうして考えついたんでしょうね」


ぼくはお姉さんの思考のリソースを少しでも圧迫するため、適当にそんなことを聞いた。こういうとき、話題を思いつくのが上手になればいいのに、と思う。


しかし、問うたことがぼくの疑問だったのもまた事実だった。縦横無尽に張り巡らされる、導線と鏡の迷路。ぼくたちはそれを配線と呼んでいたけれど、こんなに入り組んだ編み模様を、一朝一夕に思いつけるとは、とても思えない。


「私はリケイじゃないからわからないけど」


お姉さんはそんな前置きをした。ぼくにはまだよくわからないけれど、このお姉さんは大学というところに行っていて、そこで見聞きしたらしい難しい話を始めるときはときどきそういう留保をする。何度かしか顔を合わせていないけれど、このお姉さんはなんでも知っている。それなのに、どうして自分を低く紹介するのか、ぼくにはよくわからなかった。


「光の線と、リアルな導線、この組み方は、ほんとうに複雑なんだけれど、ある目的のために最適化された方法らしいんだよね。それがなんの最適化なのかはよく知らないけれど、おなじようなことをやみくもにやろうとしたら、この3倍も4倍もごちゃごちゃした配線になるらしいよ」


この3倍も4倍も。ぼくにはとてもじゃないが想像はできなかった。


「これはまだ、シンプルなほうだってこと」


「そうね、というより、なにかをシンプルにするためにベストな複雑さを持っているんだよ」


お姉さんのいっていることは、禅問答のようだった。


「この向こうに、なにかがある。私たちがやっているのは、手段の部分」


簡単なものを生み出すためには、複雑な方法をとらなければいけない。ぼくはなんとなく、さっきの配線を間違えたままにしていることは、もしかしたらとんでもないことなのではないかと思い始めた。


「あの光を正しく誘導できなかったら、どうなるんですか」


「わからない。だから私は、その先になにがあるのかを知りたいんだよ」


ぼくは頷きならがら、そろりそろりと適当な木に移動して、残りの導線をくくりつけた。もうどうしようもない。話しているあいだに時間も経ってしまったし、諦めよう。


「私たちは、『誕生日』のためにこのお祝いをする。なんども繰り返せるものというのは、複雑だからこそ、繰り返せる。これが繰り返しなんだってわかる。だけど、その先に、繰り返してまでやりたかったことがあるはずなんだよ」


お姉さんは、いちばん奥の鏡の角度を微調整している。光はここから入ってきて、まずこの鏡に反射する。あとは順々に鏡をめぐり、導線の回路とそれぞれ絶妙なタイミングで気が流れてゆくのだ。


「まあこんなもんかな。なんとか間に合ってよかったよ」


間に合ってないんだけど……まあ仕方ない。そろそろ、あの光がやってくる。その訪れはぼくたちには、どうしようもないのだ。


「あの光は、どうして日々移りゆくのかって考えたことはない?」


お姉さんが、光のやってくる方向を見つめながら聞いてくる。


「どうしてもなにも……そういうものなんじゃないですか」


「多くの学者が調べているけれど、原因はわかってない」


「闇の中ってわけですか」


「光の中って感じかな。ただ最近の研究で明らかになったことがあって、あれは本来変化するはずがない光だということ……


変わるはずのない光が変わってゆく。そういわれてもなんだかピンとはこない。ぼくたちの生活は、時事刻々移りゆくあの光を基準に営まれている。なんなら、時事刻々ということばがあの光で決まっているといってもいい。あの光が変化しないというのは、それこそ、時が流れないというようなものだ。


ぼくが話を理解できる形に落とし込むのを、光のほうは待ってくれなかった。不思議な白色光が、輝き始めた。


   ☆  


「いかにして管理するか、それが問題なんだよ。ぼくたちは太陽の生まれた日をお祝いして、それがいつかクリスマスになって、二千年以上続いてる。光というのは命の源だ。だからそのくらい、光の生まれる日を信じるというのは、生き物にとって強いモチベーションなんだ。だからそれを利用すれば、どんな複雑な回路も彼らは組んでくれる……そう信じてたんだけど」


「ぜんぜんプログラム走らないじゃないですか、失敗ですよ失敗」


「おかしいなあ、こないだやったときは何度も成功したんだけど」


「はいはい、言い訳はいいから。人工知能に擬似宗教をつくりだすなんて無謀だったんですよ」


「なんでだろうなあ、どこの世界にも、サボる奴はいるんだなあ」


「やっぱり手抜きせずに、自分で配線を組みなさいってことですね」


「ちぇ、いい方法だと思ったんだけどな……」




#創作三題噺深夜の60本一本勝負_20161223
21:00-22:00
妖怪三題噺( @3dai_yokai )から以下のお題をお借りしました。 
「誕生日」「蛍光」「方法」

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