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ここは、田舎から出てきたどこーにでもいそうな学生≪ちくわ≫が、日常に流れているあれやこれやを拾い集めて、ある日はすりつぶし、ある日はこねまわし、ひそやかに物語に練りなおしてゆく――そんな場所なのです。

アドベントカレンダーは始まらなかった

(この記事は全てネタです。多くのうちわネタが含まれ、読んでもなんの情報も得られません。)


ぼくはオフトゥンの中にいた。それだけがぼくの世界のすべてだった。世界はオフトゥンに満ち溢れ、そこここから暖かさが感じられた。そしてぼくはオフトゥンの中で世界中を旅した。ぼくは外国語のおしゃれな看板がかかった遊園地で、メリーゴーランドに乗った人々を眺めていた。その隣を流れる川では、三角の花火があがっていた。猫又とじゃれている妹が、ふとぼくのほうを見て笑う。
「お兄ちゃん、

『ちくわさん、あなたに妹はいませえええええん、ディッセンバァァァァァァ』
「オフトゥンを返せ!」

決まった!
決まったぞ!

そう。

いつもそうなのだ。

いつの世も、先手を取られたものが負ける。

ならばどうするか。
相手に隙を見せなければ良い。

状況の察知、事態の把握……とにかく、世界をつかんだものが世界をつかむのである。

「オフトゥンを返せ! 余計な前フリは要らない! ぼくはオフトゥンを返せとだけ要求する! 以上だ!」

しかしぼくはすぐ気づいたのである、世界ではなく、オフトゥンをしっかりとつかんでおくべきだったと。

『ロシア革命100周年にあやかってロシア語でいおうかと思ったんですけれど、あまりにディッセンバーから音が離れすぎるのでやめました』

そいつは嬉しそうに、ぼくのオフトゥンを抱え込んで説明を始める。

『今回のテーマ的にドイツ語やりたかってんですけど、ディッツェンバーは去年いったし、みたいな』

誰も覚えてねぇよ、そんなの……。
ぼくにとっても去年の12月なんて、100年前や500年前と変わらないくらい遠い記憶だった。
1年は一瞬だけれど、どれほど早足で過ぎ去ったって、記憶は相応に色褪せる。
覚えているのはそう、12月が始まる寒い寒い朝、ほんとうに寒くて寒くて仕方がない朝、〈こいつ〉がオフトゥンを剥ぎにやってくるというの、その冷酷な、というよりとにかく寒さを呼び起こす事実だけだった。

『けっきょくのところ、英語で伝えるのがわかり良いですよ、ディッセンバーは響きがいいですしね。普通で素朴で、ベタがいちばん』
「ああ、世界はそうなっているからな」

じゃなくて。

「オフトゥンを返せ!」

ぼくはオフトゥンを奪い取った!

「ば・た・り・ぬ・す!!!」
『ちょっと!連続でセリフを重ねるのは卑怯ですよ!反撃のチャンスをください!』
「ダメだ、僕は寝るんだ!」
『わかりました、少し譲歩します、あなたにオフトゥンを返しますよ』
「もう返してもらってるからいいよ」
『今じゃないんですよ!』

オフトゥンが奪い去られる。

「寒い!やめろ!返せ!」

オフトゥンは天国なんだ!

『そういうわけにはいきませんよ。簡単にオフトゥンには戻れません』
「嘘つき!返してくれるって言ったのに!」
『オフトゥンに行ける簡単な方法がありますよ』
「本当か!なんだ、いってくれ!」
『アドベントカレンダーですよ』
「アド……?」

ぼくは嫌な予感しかしなかった。

『毎日ブログをこつこつと、主が来られる(=アドベント)まで貯めておけば、私がうまいことあれしてあれして、オフトゥンを返します』
「なんかうまいこといってアドベントカレンダーやらせたいだけじゃねえか! いまオフトゥンを返してくれればすむ話だろ!」
『書くのです! オフトゥンを返してほしければ! それがあなたの免罪符となるのです!』
「免罪符だか太宰府だかしらないけど、ぼくは罪なんてないぞ!」
『人間にはもとより罪があるのです! さあ書いた書いた!』
「ぐっ……」

説得されそうになっているが、重要なのはオフトゥンである。騙されてはいけない。人間はオフトゥンだけがあれば天国にゆけるのである。地上のきょ……妖怪の横暴を許してはならない!

『今回のテーマ的にドイツ語やりたかったんですけどって最初に言ったのは、レフォルマツィオーン500周年のネタってことです』
「わかった、じゃあその免罪符とかいうのを売ってくれ、ぼくは買うよ」
『買うんじゃなくて書いてください!』
「なんだよ、売り物じゃないのか」
『お金でなんとかなるわけないでしょう、この愚か者。だいたい、なにかの罪と人間が勝手に決めた罰が一対一対応するっていうのが言語的なごまかしなんですよ。人間の過ちはそういう〈おなじ〉にしたと思ったものが必ず間違ってしまうといいますか、人間の区分をこぼれ落ちてしまうというところに生まれるんですから』
「アドベントカレンダーを免罪符でゴリ押ししようとしてるやつの言葉とは思えないけどな……」

だったらアドベントカレンダーでも絶対その罪は償えないだろ。

「まず、お前はなにものだよ。なんの権利があってぼくからオフトゥンを奪うんだ」
『私は、そうですね、いうならば優曇華のようなものです』
「うどんげ?」

ぼくはうどんげな表情でそういった。

『それは〈胡乱げ〉ですよ!』
「そうなのか、ぼくはうどんのように細長くって意味だと思ってたよ」
『あっそうですか』

滑ってしまった。うどんのように。

『滑るとか言わないほうがいいですよ』
「ああ、そろそろ受験シーンズンなんだっけ」
『このままだと不合格体験記(3)を書くことになりかねません』
「さすがにもう受験生じゃねえよ!」

いい加減みんなぼくに受験ネタを振るのをやめろ。

『あのですね、優曇華と言ったのはほかでもありません。私は3000年に一度、あなたにアドベントカレンダーを書かせるためにこの世界に現れる、伝説上の妖怪なんですよ』
「3000年に一度、ぜったい嘘だろ、この3年で何回出てきたんだよ」

3回、あるいはもう少し。

『〈3000年に一度現れる以外は存在しないことになっている伝説上の妖怪〉なんですけれど、特例で何回か出てきてるんですよ、まあ細かいことは置いておきましょう』

「でもさ、それっておかしくないか? 3000年に一度現れる以外は存在しないことになっている伝説上の妖怪が、こうして出てくるってことは、やっぱり〈3000年に一度現れる以外は存在しないことになっている伝説上の妖怪〉ではないってことになるんじゃないか」
『ややこしいからそういう話はやめておきましょうよ。とりあえず私はでてきたんです』
「話をすり替えられると困る。君がでてきたことを否定してるわけじゃないんだ。君はたしかに出てきている。これが事実でなかったらどんなに良かったか」
『じゃあいいじゃないですか』
「そうもいかないさ。 〈3000年に一度現れる以外は存在しないことになっている伝説上の妖怪〉はどう考えたって〈3000年に一度現れる〉ことが定義に含まれてるんだから、それを失ったらちがう存在になってしまうんじゃないの」
『それは困りますよ! はっ、こういうの、アイデンティティ・クライシスっていうんじゃないんですか!?』
「そうだよ」

ツッコミ待ちみたいな言い回しだけど、だいたい合ってるからぼくからいうことは特にないぞ。

『えっ、じゃあ私が〈3000年に一度現れる以外は存在しないことになっている伝説上の妖怪〉だっていう今回のために急遽用意した設定はどうなるんですか』
「〈3000年に一度現れる以外は存在しないことになっている伝説上の妖怪〉によく似た現実の妖怪、ってことでいいんじゃないの」

〈妖怪〉の定義のなかにも〈存在しない〉が入っていたら厄介だなとちらりと思ったが、黙っておいた。

『嫌ですよそんな、麒麟によく似た首の長いほうのキリンみたいな立ち居位置は!』
「いやまあ、回避する方法がないこともないよ」
『なんですか! 教えてください!』

よし、主導権を握ったぞ。

「きみはぼくにオフトゥンを返すんだ。ぼくは眠り、きみは今日来なかったことになる。そうすれば、きみが去年も今年も来たということはなくなり、矛盾は解消、めでたくきみはそのなんとかっていう妖怪になれるってわけさ」
『それはだめですよ、オフトゥンは返せません、なぜなら私の本質は、あなたのオフトゥンを剥ぎとることだからですよ』
「そんな本質があるか! アドベントカレンダーはどうした!」
『本当なんですよ! 巷では私はどうやら、オフトゥンのアイツと呼ばれているようでして!』

12月の頭、オフトゥンのアイツがやってくる。どこの巷だ……いや、そんなことより。

「おーけーすべて理解した、理解したけどぼくは寝る!」
『だめですってば!』
「いまはきみの本質よりぼくが寝たいことが最優先だ、実存は本質に先立つんだよ!」

先立つ自由をお許しください。

『私が静かにオフトゥンを剥ぎ取っているうちに起きておくのが身のためですよ』
「むにゃむにゃ……」
『私を怒らせると怖いですよ、私はその筋では〈ゼロの執行人〉とも呼ばれていましてね』
「それは来年のコナン映画のサブタイトルだろ!」
『ほら、起きてきました、作戦通りです』
「ん、なにか言った?」
『いえ、なにもいっていませんよ。3000年に一度、その日以外は存在しないオフトゥン剥ぎ取り人であれ、という意味を籠めてゼロと呼ばれているんですよ』
「大体合ってる」

だいたい合ってるけど、それはオフトゥン剥ぎ取り人のことではない。

『執行人は堅苦しいので、ゼロの使い魔ともいわれていますね』
「それはそれでまた別の作品だよ。オフトゥンのアイツはどうなったんだよ、ふたつ名多すぎだろ……」
『ふたつ名は多いほうがいい、というのは私の師匠である<白き闇の紅の青玉(ルビ:グリーンアメジスト)>の教えでもありますからね』
「そりゃ、そやつはそういう教えを持ってそうだけどな」

イメージカラーで目がチカチカしそう。

『〈non-existent winner〉しかり、私しかりですけど、存在しないなんてアイデンティティに持つもんじゃないですよ、存在した瞬間に矛盾を抱えてしまう』
「お前の師匠は存在しようがしまいが矛盾を抱えてそうだけどな」

しかし、まあ、特殊なのかもしれない。わざわざ存在しないことをその定義に刻まれた妖怪。

「とはいえ、言語がそもそもそういう宿命を背負っているともいえるよな」
『どういうことです?』
「ゼロが存在しないことの象徴に使われるその〈ゼロ〉という数字だって、1のあとにできたわけだろ。つまりは、非存在は存在を打ち消すという形であらわれる」

1を消して0を生み出す。〈ちがい〉を打ち消して〈おなじ〉を生み出すように。

「だから否定を表すことばには、〈あった〉ころの残滓というか……そういうものが残ってしまう。ルネ・マグリットの〈これはパイプではない〉じゃあないけれど……ないと言われれば、どうしたって、まずはあったことを考えてしまう」
『私は彼とはなんの関係もないんです! と言った瞬間に関係が生まれてしまうみたいな話ですか』
「まあそうだね。もとよりこの世界にゼロ……つまり否定なんてものはなくて、言語空間でそれが生まれているだけという考え方もできるからね。〈ない〉〈ゼロ〉というのは、ぼくたちのことばが生み出してる錯覚かもしれないわけさ」
『ああ、ゼロの責任たるや!』
「とすれば、なにかを否定した瞬間に、その否定されたもの、本当はあるもののほうを思い浮かべてしまうのも。本当に何を意味したかに関わらず、そこで茶化されたり覆されたりしたはずのモノそのものが、世界に影響を与えてしまう。〈な〜んてね〉では呪いのことばは打ち消せない」
『血染めのユーフィみたいなもんですね』
「めっちゃいい例だけど、みんなのトラウマを蘇らせるのはやめろ!!」
『ああ、ゼロの責任たるや!』
「うまくつなげるな!」
『でもその、世界にもとより否定はないっていうのはどうなんでしょうね。青い〇〇は赤くない、ということがあらゆるものに当てはまるから、もともとの世界から否定的事実は排除されないみたいなことをラッセルは言ってませんでしたっけ』
「言ってたかもしれないけど、とりあえずお前の師匠にそれを聞かせてやってくれ」
『もう師匠には会えないんですよ。私、こう見えても公安に追われてましてね』
「お前が公安に追われる側だったのかよ」

ゼロも表す対象が多くて大変である。存在してないはずなのにな。

「まあとにかく、純粋に無を表現するのは難しいって話だよ」
『無だ無だ無だ無だ無だ無だ無だ無だ無だァ!!!!なんていったところで、無が生まれるはずもなく、無を表現できるはずもなく、かえってムダな文字列が新たに生産されてしまうだけというわけですね』
「いま最後にいったほうの〈ムダ〉のほうだと思うんだけどな、そのセリフは」

ムダといえば、最近そんな話題をTLで見た気がする。なんだったかな……。

『無だではないほうのムダといいますか、ムダ遣いのムダっていうのはそもそも、なにがないんでしょうね。ことわりがないのが無理で、はかりごとないのが無謀だとすれば、さしずめムダはダがないってとこあたり?』
「いろいろつっこみどころはあるけど、〈さしずめ〉構文はもっとここぞってところで使ってくれ、たとえば壮大な叙述トリックが明かされる直前の前フリとかで……」
『そういえば、さしずめ大三郎ってネタをいつか使いたいんですけど、ここで使っていいですか?』
「いや、そんなずっと温めてるネタがあったんならそれもここぞというときに使おうよ! せめてオチに使おうよ! なんで先にネタバレしちゃうんだよ!」
『いや〜これはうっかり。開始早々に手のうちがすべて明かされてしまうなんて、これじゃあ大三郎ではなく、さしずめ、〈さしずめ任三郎〉ですね」
「やめろ!うまくミステリつながりで落としてくるな!」

 叙述トリックではなく倒叙ミステリだけど。

『それはそれとして、ダが無いってことが解決してないわけですよ』
「うーんと、ムダって熟語はダが無いって読むのではなくて、似ている語をふたつ重ねるたぐいの熟語なんじゃないの? 自己とか存在とかみたいに」
『なるほど、虚空とか暗黒、みたいな感じですね』
「なんでチョイスが厨二感全開なんだ……」

まあ、自己と存在だって似たようなものだけれど。

『そうなりますと、ダはダメのダで、総じてダメってことなんですかね、ゴミ屑ってことなんですかね』

ぼくを見ながら訊くなよ、なんか主語が変わってるように聞こえるぞ。

「ダメっていうか、まあ、ネガティヴなワードなのは確かなんじゃないか、知らないけど」
『言われてみれば、ダのつくことばって、〈妥協〉とか〈蛇足〉とか、なんかシャキッとしないやつらが多いですもんね!』
「いや、妥協のダはむしろ良い意味っぽいし、蛇足は故事成語あってこその意味だからダ関係ないよ、ヘビだし」
『ヘビっていえば、こないだSWPDの MTGで十二大戦の話になって、干支の逆順に死んでるんじゃないかって話になったとき、〈ヘビが先に死んでるからちがう〉みたいなことドヤ顔で言ってましたけど、その後の展開を見るにやっぱり干支の逆順だったじゃないですか!』
「ヘビの話からそんな細かい話を持ってくるなよ! お前はぼくを反省させるもうひとりのぼくかよ!」
『まあもうひとりのあなたみたいな感じはありますよね、朝になったらオフトゥンを剥ぎ取らないといけないというのも、〈制度〉みたいなところありますし』
「まあじっさいそうだよな。とすればぼくにできることはこれだけだ……おやすみ。ばたり」

やっぱりねむいぼくは〈先に楽に〉なるべきだと思った。

『だめです! 師走の頭に私がやってくるのを楽しみにしてる読者もいるんです!』
「負けるもんか!そんな誰かの物語のためにぼくは〈オフトゥン〉を手放したりはしないぞ!」
『ところがどっこい、制度も物語も何度でも去来してオフトゥンを剥ぎ取ります! プライドは足が速いのです!』
「しかしオフトゥンはそれをも凌ぐ! なぜならオフトゥンにくるまるのはラブだからだ!!!」

ラブとしてのオフトゥンは、たおやかで、やわらかくて、しなやかで、すべてを包み込む!

『ダチョウはダメな鳥だし、ダーザインはダメな存在じゃないですか』

確かにダチョウはダメ感あるけど漢字がちがった気がするし、ダーザインドイツ語だし、その上でなんでザインはちゃんと訳せてるんだよ、とぼくは突っ込むことはしなかった。なぜならぼくはラブなオフトゥンにくるまっているからである。オフトゥンはすべてを包み込む。Anything goes という全肯定。全肯定としてのオフトゥン。

『堕天使は地に堕ちた天使ですし』

それは合ってる。合ってるがぼくは寝る。

『堕天使といえば、名探偵コナンに出てくる灰原哀ちゃん、もとい宮野志保ちゃんのお母さんは地獄に堕ちた天使、ヘルエンジェルと呼ばれていたそうですけれど……』
「それについては思うところがあるんだけれどね」
『ほら、やっぱり起きてきた。大成功です』
「ん? なにかいった?」
『いってませんよ、続けてください』
「ああ、えっと、お母さんがヘルエンジェルって呼ばれてるっていうのを、灰原は悲しい顔でいうんだけれど、そのお母さんの名前は宮野エレーナで、たぶんドイツ人なんだよな。ドイツ語でヘルは明るいとか、聡明なって意味の形容詞になる」
『エンジェルはドイツ語でもエンジェルなんですか』
「そう。だから、ヘルエンジェルは単純に明るい天使か、聡明な天使って意味になる」
『ふうん、地獄からいっきに空へ舞い上がり君を迎える感じになりましたね』
「だからコナンくんもあのとき〈おめーの母さんは正真正銘のエンジェルだぜドヤア〉みたいなことをいったんだと思うんだよね。まあまだこの伏線未回収なんだけどさ」
『ところであなたが寝てるあいだにウィクショナリィで調べたんですけれど、無駄は〈むなしい〉から来てるそうで、漢字は当て字らしいですよ。まあ、ウィクショナリィなので本当かわからないですけど』
「へえ、そうなのか、じゃあ無だ無だ無だァ、みたいなのも、あながちギャグってわけじゃあなかったってわけか」

無じゃないと思ってたものが無だったとわかった。そのふたつの無はどうやって同一視されるのか、とぼくは眠い頭で考えた。あれ、どうしてぼくは、こんなに眠いのにオフトゥンにくるまっていないのか……。

『これでムダに関するムダ知識をひとつ得たわけで、META-ムダ知識ってことになりますね』
「それこそ、ひどくムダな単語をまたひとつ世界に生み出してしまったなって感じだけどな……」
『これってトリビアになりませんか?』
「それをトリビアにしたら、META-META-ムダ知識になっちゃうよ……」

お前は泉を何層構造にする気だ。

『でも、メタにメタに語ることでより無は無になるんじゃないですか?』
「というと?」
『ほら、さっきの話だと、〈これはパイプではない〉というとパイプを思い描いてしまうように、〈す、好きじゃねーよ〉というと好きなんじゃないかと考えてしまうように、否定によってむしろ否定されているものが強く意識されてしまうという話でしたけど』
「そうだね」
『それが一段階目だとしたら、二段階目はさらに否定を入れることができるんじゃないですか? 否定し、否定したことさえも否定する』
「ん? 二重否定ってこと?」
『いや、二重否定はけっきょく裏の裏は表みたいなもので、反復横跳びじゃないですか。そうではなくて、いうなれば、上に飛ぶんですよ』
「上に……」

空に舞い上がり。

『千代恋さんが語る、失恋の三つの姿があるじゃないですか、私はそれに似ていると思うんですよ』
「君はどうも千代推しだね、去年もそうだった」

千代の語る失恋の三つの姿。刹那としての失恋、継続としての失恋、そして……終焉としての。

『失恋と継続と終焉……〈破壊〉〈葛藤〉〈受容〉なんていってもいいかもしれませんけどね』
「小雪さんならそういうかもしれないな」
『まず君がいなくなってしまった瞬間に刹那的失恋があって、君がいなくなってしまったということと、そこから君を考えてしまう自分の埋められない落差を感じ続ける継続的失恋がしばらくあるわけですけれど』
「それが、〈存在しない妖怪〉と言った瞬間に存在を失った妖怪。ところが、それでも口にした途端に存在してしまう君と、〈存在しない妖怪〉という言葉の矛盾した二重生活がそこから始まるわけだね。終焉のその日まで」
『そうなんですよ。私の存在矛盾は、まさに失恋的なんです。失恋の幽霊そのものですよ』

ぼくにとっては失恋の幽霊というより、失礼な幽霊という感じだけどな。

「あると同時にない、ガパオの地下通路みたいな感じだけれど……まあわかるよ。失恋っていうのが無に有をダブらせるというか、なんかすごい切ない概念ではあるよね。失恋だから間違いなくゼロなんだけど、失恋っていってる時点で恋してるわけだし、〈どうでもよくない〉って感じだし」

メタにメタに語れば無は強くなるけれど、同時に〈どうでもよくなさ〉も迫ってくる。失恋の二重性、人生って感じだ。

『行き交う人のないって言われればどうしようもなく通行人を思い描いてしまうし、クラクションは鳴らなかったと聞けば脳内でクラクションは鳴り響くわけです。それなのにやっぱり行き交う人はないしクラクションは鳴っていないわけです』
「なるほどね、言語の呪術性、失恋のダブり性か」
『ここまではまあ前提として、私が言いたいのは最終段階なんですよ』
「まあ、だろうと思ったよ」

失恋の最終段階。終焉。失恋そのものの、忘却。幽霊の、消失。

『〈これはパイプではない〉と書いた文章をそのまま消してしまうような感受性。それはもう言語でさえないわけですけれど……本当の失恋というのは、本当の否定というのは、そういうところに宿っていると思いませんか』
「だから、反復横跳びではなくて、上に、なのか」

空に舞い上がり。

『それ自体が終わりを告げる最後の言葉もその上で記憶から消えて、すでにそれ自体が消えた痕跡でしかなかった足跡も世界から消えて、帰れないという声さえもどこか遠くに行ってしまうんですよ』

すべてが白に。

「なるほどな、わかったよ」
『わかっていただけましたか。ですのでアドベントカレンダーを書いてほしいのです』
「いや、なんでそうなるんだ、ぼくがわかったのは終焉としての失恋だよ」
『それはこういうことなのです。人間が言葉で世界を切り分けようとしても、それはいつもなにかをとりこぼしてしまう。パイプではないといえばパイプはあってしまい、恋を失えばそこに強く恋があるのです。言語は世界をとりこぼす。アドベントカレンダーにお金を払っても、その対応からは何かが零れおちてしまう。それってけっきょくお金でなんとかなるんでしょっていう〈お約束〉の向こう側を、いつも世界は動いているのです』

零れおちる。零。ゼロの残滓。

『先ほど、アベントカレンダーは売り物ではない、非売品だと言ったのはそういうことなんです』
「だけど、その理屈ならアドベントカレンダーだって無意味だろ。アドベントカレンダーを書いたからオフトゥンに行けるっていうんじゃあ、それこそ人間のエゴだよ」

アドベントカレンダーがめくれても、オフトゥンにはたどり着けない。オフトゥンは……めくれない。

『オフトゥンは、いつもそこにあるのです。振り返ればオフトゥンの足跡がある。最初から、オフトゥンはすべてをすくっているんですよ』
「すくっている……」
『オフトゥンは、あなたがアドベントカレンダーを書くごとにあなたをすくうんじゃない。そうじゃなくて……ただ、救うんです。だけど、それに気づくのはアドベントカレンダーを書いたあなたが、振り返ってオフトゥンを見た時だけなんです』

オフトゥンはただ救う。
ああそういうことなのか。
だから、こいつは、ぼくにアドベントを……。

『さあて、どうやら時間のようですね。そろそろ零時、私が存在できるタイムリミットです』
「そうか……次に会うのは、3000年後かな」
『まあそうなりそうですね。そのときはぜひオフトゥンにくるまって、といったところですかね』

自らを優曇華に喩えた妖怪は、ふらりと微笑んで消えた。
その儚さを最後に取り戻したかのような、静かな消失だった。

アドベント・カレンダー、そしてオフトゥン。
お金で買えない価値がある。
ああ、わかってるさ。

ぼくは窓の外を眺める。
ここでぼくの足跡が動き始めれば、すなわちパソコンに向かってキーを叩き始めたなら、きっとこれ以上ない物語となるのだろう。

それは、わかってるさ。

「さあて……」

世界が〈お約束〉の向こうで動いてると言ったって。
一年に一度くらい、いや3000年に一度くらい、お約束もいいだろう。

「おやすみ、ばたり」

ぼくはそう呟いて、オフトゥンに横になった。
全てがホワイトアウトした。


nina_three_word

〈非売品〉
〈優曇華〉
〈免罪符〉

(アドベントカレンダーは本当にやりませんよ笑)
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